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「出発は遂に訪れず」島尾敏雄

出発は遂に訪れず (新潮文庫 し 11-1)出発は遂に訪れず (新潮文庫 し 11-1)
(2007/07)
島尾 敏雄

商品詳細を見る


内容紹介(新潮社HPより)
特攻の瞬間に向けて、生命のすべてを凝縮させていた特攻隊将校の特異な体験を緊迫した言葉で語る表題作ほか全9編。
敵艦に体当りする瞬間に向けて生命のすべてを凝縮させながら、終戦の報によって突如その歩みを止められた特攻隊将校の特異な体験を緊迫した言葉で語る表題作。超現実的な夢の世界に人間の本質を探った画期的作品「夢の中での日常」ほか、「島の果て」「単独旅行者」「兆」「帰巣者の憂鬱」「廃址」「帰魂譚」「マヤと一緒に」など、現実と幻想の間を自在に行き交う文体で、痛切な私的体験を普遍へと昇華させた島尾文学の代表作。


島尾敏雄  ←ここクリック
(wikiより)
第十八震洋特攻隊隊長として、奄美群島加計呂麻島に赴任。1945年8月13日に特攻戦が発動され、出撃命令を受けたが発進の号令を受けぬまま即時待機のうちに終戦を迎える。
作品は超現実主義的な「夢の中での日常」などの系列、戦争中の体験を描いた「出発は遂に訪れず」などの系列、さらに家庭生活を描いた「死の棘」などの系列に大別される。また生涯書き続けられ、小説作品との決定的な差異は無いとされる日記や紀行文など記録性の高いテキスト群や南島論なども高い比重を占める。


この人の文章は感傷や自己憐憫に酔うこともなく、南の島の美しさや生活の厳しさも淡々と描いており、押し付けがましくない。
が、淡々であるのにものすごい悲壮感や諦観みたいなものがじわじわ伝わってくる。

収録作品「廃址」は、戦後10年経って震洋特攻艇基地があり、妻となった女性の故郷でもある加計呂麻島へ再訪した様子を描いている。

半円の空虚を抱いた洞窟の入口の孤が私の網膜に焼きついた時に、十年の歳月がふっとかき消え、私は今もなおあの時のいつものように、Sの防備隊からの帰り道だという気分が切なく湧き上がった。ほどんと気まぐれに近づいてくる死を待って、一日一日を送っていた場所が、そこに消滅しないで位置を占めている。それは疑えない。確か過ぎて不満なほどだ。むしろそこで私と違ったもう一人の私が、今も相変わらず死の特攻出撃の命令を待って、朝夕を送っているのではないか。

↑「洞窟」とは戦時中特攻艇が格納されていた場所の事だ。10年を経て再び同じ場所に立った時の幻影、時間を越えて一瞬で巻き戻しされるような感覚、いかに特異な体験であったかがこの数行だけで見事に伝わってくる。

表題作品「出発は遂に訪れず」の方は特攻出撃を待つ所から終戦にいたるまでを描いたもの。
基地のある島で知り合い逢瀬を続けた「トエ」との別れの場面は感傷に落ち込む事の無い文章だ。
玉音放送を聞いたあとの「私」は単純に生きられる事を喜ぶでもない。

ーーー言いようの無い寂寥が広がっていた。時点が移ってしまえば、想像することさえ禁じていた、死の方に進まなくてもいい生き延びられる世界は、色褪せて有りふれたものにしぼんでしまい、そこで手放しで享受できると考えた生の充実は手のひらの指のすきまからこぼれてしまったのか。装われた詭弁があとくち悪く口腔を刺激し、生き延びようと腐心する私を支える強い論理を見つけ出すことが出来ない。


島尾という人はこの特異な経験から来るものなのか生来なのか知らないが、どうも女性関係でドロドロ状況を引き寄せる人でもあるようだ。
戦後は妻の正気を失わせる事をやらかし、その他の何人も女性の人生を狂わせたようで、これはもしかして「魔性の男」?
ストイックで観念的な精神を持っていると同時に間逆のドロドロの男女模様を演じてしまう、極端を併せ持つ不思議な人だ。



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コメント

こんばんは

失礼ながら、記事は早読みしただけですが、飛びついてしまいました。島尾敏雄が出てくるなんて、うれしいですね。
特殊潜航艇のところで、書洩らしてしまったけど、まあいいや、と思っていたのでした。

島尾は昭和20年8月13日に出撃命令は出たが、ついに出撃することなく終戦を迎えたのでした。彼はご先祖は福島のたくさん作家を輩出したところらしいですが、彼自身は神戸です。九州帝大を出て、予備士官学校ですから、年長者だったらしいですね。
戦後は鹿児島県立図書館奄美大島分館の館長をしてました。
彼には病妻ものと特攻隊ものがあります。「魚雷艇学生」のことを書洩らしたのでした。でも、ご存じなようですね。

では、多分、ご存知でないことを・・・。
島尾が病妻のことを書いた原稿を、ミホ夫人が隣で清書していたそうです。山崎行太郎さんが世界に誇る日本の「私小説」といいますが、私小説といえば島尾ですね。文学作品としてもすぐれたものです。ストイック、言えてますね。キリスト教徒のせいかも。
私も昔のことで忘れてますが、彼の文化講演会に行ったことあります。その時のメンバーは武田泰淳、堀田善衛、半村良、それから・・・忘れました(笑)。皆故人となられました。

夜も更けて参りました、また、記事の精読にお伺いします。

>うさぎ屋さん

こんにちは。
詳しく知ってらして、さすがです。島尾本人の講演会まで行かれたとは凄い!
ミホ夫人は自分自身の事を書いた話を清書していた、ということですか。それ自体が作品みたいですね。

島尾について以前から神戸時代のとある噂?を聞いていたので本当だろうかと、検索してみました。「島尾敏雄 神戸 女」というキーワードでi-237
そしたら凄い話が出てきました↓(ヨソ様のブログですが)
http://yukochappy.seesaa.net/article/104552869.html
ミホ夫人の事を「今様道成寺」ですって・・。作品の中でも夫人はかなり情熱的な人との印象を受けますが、もっと下世話に語ってくれています。噂好きな主婦が飛びつきそうな話です(まあ私の事ですがi-229
私が聞いていたのはミホ夫人の事ではなく、川崎財閥系の久坂という女性のこと。久坂自殺の原因が島尾だとの噂は島尾結婚後だからと否定していますが、これも女性側が一方的に追いかける「道成寺」なら有り得なく無いです。
噂好きの主婦がある事無い事尾ひれ付けて広めそうな話です。(はい、これも私のことです)

帝大出で海軍士官で温厚で優しく格調高い文章を書くとなるとモテたんでしょうね。島尾さんは。
特攻艇の話はもちろんのこと女性関係も壮絶です・・。

こんにちは☆☆

私はお二人とも何度かお見かけしたことがあります。
長男の伸二さんは写真家、あとお孫さんか何か芸能人がいるようですが。
ミホ婦人は島尾亡きあとエッセイストとしてデヴューされます。当時、かなりの高評価だったと思います。

最初に「夢」とありますが、思いだしたことがあります。これは実際に寝たときに観る夢のことです。毎晩のように夢を見る私からすれば不思議な話であったので、よく覚えています。
彼は夢を見るために、寝るときに胸の上で両手を組んだりして努力していたんですね。

それと、差別ということについて、私は過去ブログに書いたのですが、人間には差別は在る、と言ってました。差別はいけないとみんなわかってはいるが、ハンセン病患者の変形した手を差し出され、握手を求められた時に、自身の手が一瞬躊躇したというんです。これもある意味、差別だというのでしょう。
以上、活字になっていないお話でした。

私も昨日、桜島の稿で、東郷青児画伯の艶福家、早い話がスケベぶりについて、地元の女流画家から直接聞いたお話に触れようかな、と思ったのですが、それでは、ま~たランキングが下がってしまう(笑)と、思いとどまったのでした。そこいらはまたの機会に。では。

>うさぎ屋さん

色んな情報をどうもです。
> 私はお二人とも何度かお見かけしたことがあります。
そうなんですか!近所に住んでいたとか・・?

> 彼は夢を見るために、寝るときに胸の上で両手を組んだりして努力していたんですね。

「夢の中の日常」の他にも夢を題材の作品(前出の女性・久坂らしき女性が出てくる)があるようです。

> それと、差別ということについて、私は過去ブログに書いたのですが、人間には差別は在る、と言ってました。

こういう辺り、研ぎ澄まされた感覚の持ち主って感じがします。いつも自分を俯瞰しているような。
夢のこともそうですが、島尾って人は日常的に(クスリ抜きで)トリップしてるかのようですねえ。現実感失うことなく家族を養い、その上で良くも悪くもあっち側(彼岸)へ行けるとか、行こうとしているとか。戦中の特異な体験が何も残さないはずないだろうし、と自分なりの勝手解釈しております。

> 私も昨日、桜島の稿で、東郷青児画伯の艶福家、早い話がスケベぶりについて、地元の女流画家から直接聞いたお話に触れようかな、と思ったのですが

いえいえ、楽しみにしてますので書いてみて下さいi-179

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